従業員がメンタル不調で休むことになったら|中小企業のための休職・復職ルールのつくり方

従業員がメンタル不調で休むことになったら|中小企業のための休職・復職ルールのつくり方

はじめに

「診断書を持ってきて、明日から休みたいと言われた」「休職中の社員から、そろそろ復帰したいと連絡があった。受け入れてよいものか」——こうしたご相談は、規模の大小を問わず増えています。

厚生労働省が2026年7月15日に公表した令和7年度の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する労災請求件数は4,958件、支給決定(認定)件数は1,082件と、いずれも過去最多を更新しました。原因として多いのは、パワーハラスメント、カスタマーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどの出来事です。

メンタル不調への対応は、もはや「大企業の話」ではありません。そして対応をこじらせる最大の原因は、社内にルールがないまま、その場の判断で進めてしまうことです。本記事では、中小企業がまず整えておきたい休職・復職のルールを整理します。

そもそも休職制度は「法律上の義務」ではありません

意外に思われるかもしれませんが、私傷病による休職制度は、法律で設置が義務づけられた制度ではありません。会社が任意に設ける制度です。

ではなぜ整備が必要かというと、休職制度がない場合、働けない状態が続く従業員について「解雇するか、雇用を続けるか」という極端な二択に近づいてしまうからです。休職制度は、解雇を猶予し、回復を待つための仕組みとして機能します。

そして休職制度を設ける以上、就業規則への記載が必要です(労働基準法上、いわゆる相対的必要記載事項にあたります)。規定がないまま前例だけで運用すると、「あの人は1年休めたのに、なぜ自分は3か月なのか」といった不公平感がトラブルの火種になります。

休職規定に盛り込みたい6つの項目

① 休職を命じる要件と、会社の休職命令権

「傷病により欠勤が引き続き○日に達したとき」など、休職に入る条件を明確にします。あわせて、本人の申出がなくても会社が休職を命じることができる旨を定めておくと、明らかに就労が難しい状態での出社を止めやすくなります。

② 休職期間と、期間満了時の取扱い

勤続年数に応じて「3か月〜1年」などと段階を設けるのが一般的です。あわせて、期間が満了しても復職できない場合の扱い(自然退職とするのか、解雇とするのか)を明記します。この一文の有無が、後の紛争リスクを大きく左右します。

③ 休職期間の通算規定

メンタル不調は、復職後に再発するケースが少なくありません。同一または類似の傷病で再び休職した場合は期間を通算する旨を定めておかないと、短期間の復職と休職を繰り返し、実質的に休職期間が無制限になってしまうことがあります。

④ 休職中の賃金と社会保険料

休職中を無給とする場合は、その旨を明記します。注意したいのは、育児休業と異なり、私傷病休職では社会保険料は免除されないという点です。給与から控除できないため、本人負担分をどう回収するか(毎月振込んでもらう、復職後に分割で控除するなど)を事前に決めておかないと、後で気まずいやり取りが発生します。

⑤ 診断書の提出と定期的な報告

休職開始時だけでなく、一定期間ごとに診断書の提出や状況の報告を求めるルールにしておくと、会社が状況を把握できず連絡が途絶える事態を防げます。

⑥ 復職の判断基準と手続き

後述のとおり、ここが最も重要です。

休職中の生活費——傷病手当金の案内を忘れずに

健康保険の被保険者が私傷病で働けない場合、傷病手当金を受給できることがあります。中小企業では、この制度を従業員がご存じないまま不安を募らせているケースをよく見かけます。

  • 金額の目安:支給開始日以前の直近12か月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 3分の2(おおむね給与の3分の2)
  • 待期:連続して3日休んだ後、4日目から支給対象
  • 期間:支給開始日から通算して1年6か月(令和4年1月から、支給された日を通算する方式になりました)

会社から案内するだけで、従業員の安心感は大きく変わります。「会社は自分を切り捨てない」という実感は、復職後の定着にもつながります。

復職の判断で押さえておきたいこと

診断書は「判断材料のひとつ」

主治医の診断書は重要な資料ですが、主治医は本人の申告をもとに、日常生活が送れる程度を基準に判断していることが多いとされています。会社が知りたいのは「自社の業務を通常どおり遂行できるか」ですから、業務内容や勤務時間を書面で伝えたうえで意見を求めることが有効です。

そのうえで、最終的な復職の可否は会社が判断するのが原則と考えられています。産業医、または会社が指定する医師の意見を聴ける仕組みを規定に入れておくとよいでしょう。

「元の仕事ができること」が原則ですが

復職の基準は、原則として従前の業務を通常程度に行える状態とされます。ただし裁判例では、他に配置可能な業務がある場合には、その検討を求められることもあるとされています。一律に線を引かず、個別の事情に応じて慎重に判断することが求められます。

試し出勤(リハビリ出勤)の扱いを決めておく

段階的に慣らす仕組みは有効ですが、その期間が休職中なのか復職後なのか、賃金は支払うのかを曖昧にしたまま始めると、後から賃金請求のトラブルになりかねません。制度として規定しておくことをおすすめします。

予防の面から——2028年4月、ストレスチェックが全事業場で義務に

2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にも、ストレスチェックの実施が義務づけられます。施行日は2028年4月1日とされ、50人未満の事業場の初回の実施期限は2029年3月31日までとされています。

まだ先の話に見えますが、実施者(医師等)の確保や外部機関の選定は、直前になると混み合うことが予想されます。産業保健総合支援センターの無料支援などを使いながら、早めに情報収集を始めておくと安心です。

まとめ:チェックリスト

  • □ 就業規則に私傷病休職の規定があるか
  • □ 休職期間と、期間満了時の取扱い(自然退職・解雇の別)を明記しているか
  • □ 同一・類似の傷病で再休職した場合の通算規定があるか
  • □ 休職中の賃金と、社会保険料の本人負担分の回収方法を定めているか
  • □ 診断書の提出時期・頻度をルール化しているか
  • □ 復職の判断手続き(会社指定医の受診協力など)を規定しているか
  • □ 試し出勤を行う場合の位置づけと賃金の扱いを決めているか
  • □ 傷病手当金の案内を、休職開始時に渡せる状態にしているか

メンタル不調への対応は、「制度があること」そのものが会社と従業員の双方を守ります。問題が起きてから規定を作ると、その従業員を狙い撃ちにしたように見えてしまうため、平時のうちに整えておくことが何よりの対策です。

休職規定の新設・見直し、復職手続きの整備、産業医や相談窓口の体制づくりなどでお悩みでしたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。


※本記事は2026年9月1日時点の公開情報(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」令和7年度・2026年7月15日公表、全国健康保険協会の公表資料等)に基づいています。個別の事案への当てはめは事情により判断が異なる場合がありますので、具体的な対応にあたっては専門家にご相談ください。

社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳

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