
はじめに
「お客様からの理不尽な要求で、従業員が疲弊している」——そんな悩みを抱えていても、「お客様商売だから仕方がない」と対応を先送りにしてきた企業は少なくないのではないでしょうか。
しかし2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が、法律上の義務になります。改正労働施策総合推進法によるもので、業種・企業規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象です。中小企業に対する猶予措置は設けられていません。
施行日まで残りわずかとなりました。本記事では、何が義務化されるのか、そして中小企業が9月中に着手しておきたい実務を整理してお伝えします。
何が変わるのか
今回の改正は、2025年6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号)によるものです。あわせて2026年2月26日に指針(令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)が示され、企業が具体的に何をすべきかが明確化されました。
2026年10月1日から義務化されるのは、次の2つです。
- カスタマーハラスメント対策(改正労働施策総合推進法)
- 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策(改正男女雇用機会均等法)
2つ目は、いわゆる「就活セクハラ」への対策です。採用面接やインターンシップ、OB・OG訪問の場面などが想定されており、新卒・中途を問わず採用活動を行うすべての企業に関わります。「うちは接客業ではないから関係ない」という企業でも、採用活動をしている限り無関係ではない点にご注意ください。
なお、保護の対象となる「労働者」には、正社員だけでなくパート・アルバイト、契約社員、派遣労働者も含まれるとされています。
そもそも「カスハラ」とは何を指すのか
指針では、カスハラは次の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 職場において行われる顧客等の言動であること
- 社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それにより労働者の就業環境が害されること
ここで重要なのは、正当な申し入れや指摘はカスハラには当たらないという点です。商品やサービスに落ち度があった場合の改善要求そのものは、当然ながら正当なクレームです。問題となるのは、要求の内容が過剰であったり、要求を通すための手段・態様が社会通念を超えていたりするケースです。
たとえば、長時間にわたる拘束、繰り返される電話や訪問、人格を否定する暴言、土下座の要求、SNSでの晒し行為などが典型例として挙げられます。
この線引きが曖昧なままだと、現場の従業員は「どこまで耐えるべきか」を一人で判断せざるを得ません。判断基準を会社として示すこと自体が、対策の第一歩といえます。
事業主に求められる措置
指針では、事業主が講ずべき措置として10項目が定められています。大きく5つの柱に整理すると、次のようになります。
① 方針の明確化と周知
カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという会社の方針を明確にし、その内容と対処方法を従業員に周知・啓発します。
② 相談体制の整備
相談窓口をあらかじめ定めて従業員に周知し、担当者が適切に対応できる体制を整えます。中小企業では、経営者や総務担当者が窓口を兼ねる形でも差し支えないとされていますが、「誰に言えばよいか」が全員に伝わっている状態をつくることが必要です。
③ 発生後の対応
事実関係を速やかに確認し、被害を受けた従業員への配慮措置(一人で対応させない、担当を替える、必要に応じて休ませる等)を行い、再発防止に取り組みます。
④ 悪質事案への抑止措置
悪質なケースにどう対処するか(複数対応、録音、面談時間の上限、警察・弁護士への相談など)を、あらかじめ方針として定めておきます。
⑤ プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談者や関係者のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、周知します。
中小企業が9月中に着手したいこと
10項目と聞くと身構えてしまいますが、中小企業であれば、A4数枚の方針文書とマニュアルの整備から始めるのが現実的です。優先順位をつけるなら、次の順序をおすすめします。
- 基本方針を1枚にまとめる(会社としてカスハラを許さない、従業員を守る、という宣言)
- カスハラの判断基準と対応手順をマニュアル化する(どの段階で上司に引き継ぐか、どこで対応を打ち切るか)
- 相談窓口を決めて全員に周知する
- 朝礼やミーティングで説明の場を設ける(研修は大がかりでなくても構いません)
- 就業規則への反映を検討する
なお、就業規則への記載は法律上必ずしも必須とはされていませんが、実務上は反映しておくことが望ましいと考えられます。相談を理由とした不利益取扱いの禁止を明記できること、また従業員側に問題があった場合の懲戒の根拠を整理できることが理由です。
まとめ:施行前チェックリスト
- □ カスハラに関する会社の基本方針を文書化したか
- □ カスハラの判断基準と対応手順を定めたか
- □ 相談窓口を決め、従業員全員に周知したか
- □ 悪質事案への対処方針(録音・複数対応・外部相談等)を定めたか
- □ プライバシー保護と不利益取扱い禁止を明記したか
- □ 採用活動における求職者等へのセクハラ防止措置を確認したか
- □ 就業規則・諸規程への反映を検討したか
カスハラ対策は、法令対応であると同時に、従業員の定着に直結するテーマでもあります。「会社は自分を守ってくれる」という実感は、採用が難しい時代において大きな力になります。
方針文書やマニュアルのひな形づくり、就業規則への反映など、自社だけで進めるのが難しいと感じられましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年8月30日時点の公開情報(厚生労働省リーフレット等)に基づいています。個別の事案への当てはめは事情により判断が異なる場合がありますので、具体的な対応にあたっては専門家にご相談ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
