
はじめに
2026年度の最低賃金の改定額が、各都道府県で出そろいました。千葉県は1,195円(55円の引上げ)、東京都は1,280円(54円の引上げ)となり、いずれも2026年10月1日から発効します。
「毎年上がるものだから」と受け止められがちな最低賃金ですが、引上げ額が50円を超える水準が続いている今、対応の遅れがそのまま法違反につながるリスクが高まっています。
本記事では、2026年度改定の内容と、経営者が9月中に済ませておきたい準備を整理してお伝えします。
2026年度の改定内容
中央最低賃金審議会は2026年7月28日、地域別最低賃金の引上げ額の目安を、Aランク54円・Bランク56円・Cランク56円と答申しました。この目安どおりに改定された場合、全国加重平均は1,176円(前年度から55円、約4.9%の引上げ)となる計算です。実際には目安を上回る答申を行った県も多く、最終的な全国加重平均はこれを上回る見込みです。
千葉県では2026年8月5日に千葉地方最低賃金審議会が答申を行い、1,195円とされました。目安の54円を1円上回る55円の引上げで、その幅は過去2番目の大きさとなります。その後、異議申出の手続きを経て、9月1日に決定が公示されました。
| 改定後 | 引上げ額 | 発効日 | |
|---|---|---|---|
| 千葉県 | 1,195円 | +55円 | 2026年10月1日 |
| 東京都 | 1,280円 | +54円 | 2026年10月1日 |
なお、発効日は都道府県ごとに異なります。2026年度に10月1日から発効するのは千葉県・東京都を含む16都道府県ほどで、多くはその後10月中に発効しますが、11月以降にずれ込む府県もあります(徳島県・愛媛県は11月1日、京都府は11月16日)。複数の都道府県に事業場をお持ちの場合は、それぞれの発効日を必ずご確認ください。
見落としやすい3つのポイント
① 「支払日」ではなく「労働日」が基準
よくある誤解が、「10月支払分の給与から新しい金額にすればよい」というものです。基準となるのは支払日ではなく、実際に働いた日です。
千葉県の場合、2026年10月1日以降の労働分から1,195円以上を支払う必要があります。給与の締日が月末以外の会社(たとえば20日締め)では、1つの給与計算期間の中に旧額と新額が混在することになりますので、計算方法をあらかじめ確認しておくことが大切です。
② 月給制の従業員も対象になる
最低賃金はパート・アルバイトだけの話ではありません。月給制の正社員も、時給に換算して最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。
月平均所定労働時間が173.8時間の会社であれば、千葉県の1,195円は月額約20万7,700円に相当します。フルタイムの従業員でこの水準を下回る方がいないか、点検が必要です。
③ 最低賃金に算入できない手当がある
時給換算する際、すべての手当を含めてよいわけではありません。次のような賃金は、最低賃金の計算から除外するのが原則とされています。
- 通勤手当
- 家族手当
- 精皆勤手当
- 時間外・休日・深夜労働の割増賃金
- 賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
「手当を含めれば足りている」と思っていたが、除外して計算すると不足していた——というケースは実務でしばしば見受けられます。基本給と、毎月固定的に支払われる諸手当(上記除外分を除く)で判定するとお考えください。
賃上げとあわせて検討したい「業務改善助成金」
賃上げに伴う負担を軽減する制度として、業務改善助成金があります。事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資等を行った中小企業に、その費用の一部が助成される制度です。
令和8年度(2026年度)は制度が見直され、主に次の点が変わりました。
- 従来の30円・45円コースが廃止され、50円・70円・90円の3コースに再編
- 助成率は1,050円を基準に整理(事業場内最低賃金が1,050円未満は4/5、1,050円以上は3/4)
- 助成上限額は最大600万円
- 生産性要件が廃止され、申請の要件が実質的に簡素化
もっとも注意していただきたいのが申請期限です。 令和8年度は9月1日に受付が始まりましたが、締切は「その都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日」または「2026年11月30日」のいずれか早い日とされています。
つまり、発効日が10月1日である千葉県・東京都の企業は、2026年9月30日が申請期限です。受付開始から1か月しかない、想像以上の短期決戦ということになります。
また、申請には「計画の作成 → 交付申請 → 賃金引上げ → 交付決定 → 設備の導入 → 支給申請」という順序を守る必要があり、順序を誤ると対象外となる点にもご注意ください。国の予算に達した時点で早期終了となる可能性もあります。活用をお考えの場合は、最新の公募要領をご確認のうえ、早めに動かれることをおすすめします。
まとめ:9月中のチェックリスト
- □ 自社の事業場所在地の改定額と発効日を確認したか(千葉県は1,195円/10月1日)
- □ パート・アルバイトの時給を新しい最低賃金と照合したか
- □ 月給制の従業員も時給換算して確認したか
- □ 通勤手当・家族手当・精皆勤手当を除外して計算したか
- □ 給与計算期間をまたぐ場合の計算方法を決めたか
- □ 上位層との賃金バランス(賃金カーブの圧縮)への影響を試算したか
- □ 雇用契約書・賃金規程の記載を更新する準備をしたか
- □ 業務改善助成金の活用可否を検討したか(千葉県・東京都は9月30日締切)
最低賃金の引上げは、対象となる従業員の賃金だけでなく、その上位層とのバランスや人件費計画全体に影響します。毎年のことだからこそ後回しにされがちですが、対応の遅れは法違反のリスクに直結します。
自社への影響の試算や、賃金規程の見直し、助成金の活用についてご不安な点がございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年9月1日時点の公開情報に基づいています。業務改善助成金は国の予算に達した時点で受付が早期に終了する場合があります。最新の情報は各都道府県労働局・厚生労働省の発表をご確認ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
