
はじめに
年末調整は12月の作業と思われがちですが、実際の勝負は10月から11月の準備段階で決まります。申告書の配付が遅れれば回収も遅れ、12月の給与計算に間に合わなくなるためです。
そして令和8年分(2026年分)の年末調整は、例年以上に注意が必要です。税制改正により基礎控除や給与所得控除の額が変わり、申告書の様式そのものも変更されています。「去年と同じ書式を配ってしまった」という事故が起こりやすい年です。
本記事では、総務・人事のご担当者に向けて、10月から始める準備の段取りと今年の変更点を整理してお伝えします。
なお、税額計算の具体的な取扱いについては税理士の業務領域となります。判断に迷われる点は、顧問税理士にご確認ください。本記事は実務スケジュールと従業員対応の観点からの整理です。
今年の主な変更点
① 基礎控除と給与所得控除が引き上げられました
| 項目 | 改正前 | 令和8年分 |
|---|---|---|
| 基礎控除(本則) | 58万円 | 62万円 |
| 基礎控除(令和8・9年分の特例) | — | 最大104万円 |
| 給与所得控除(最低保障額) | 65万円 | 74万円 |
特例により、合計所得金額が489万円以下の方は基礎控除が104万円、489万円超655万円以下の方は67万円となります。これにより、所得税がかからない給与収入の水準は178万円まで引き上げられます。
② 「源泉控除対象親族」という区分が新設されました
従来の「控除対象扶養親族」に代わり、源泉控除対象親族という区分が設けられました。19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超100万円以下の親族(特定親族)も、この区分に含まれます。
③ 特定親族特別控除が新設されました
19歳以上23歳未満で合計所得金額が62万円超123万円以下の親族について、新たに控除が受けられるようになりました。
このうち合計所得金額が100万円超123万円以下の場合は、月々の源泉徴収では考慮されません。年末調整で「特定親族特別控除申告書」を提出してもらう必要があります。大学生のお子さんがアルバイトをしているご家庭で該当しやすい部分です。
④ 扶養親族等の所得要件が緩和されました
扶養親族・同一生計配偶者などの合計所得金額の要件が58万円以下から62万円以下に、勤労学生控除は85万円以下から89万円以下に引き上げられました。
⑤ 子育て世帯の生命保険料控除が拡充されました
23歳未満の扶養親族がいる場合、一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円に引き上げられます。ただし、生命保険料控除全体の合計限度額は12万円のまま据え置かれています。
適用時期を間違えないでください
ここが今年もっとも混乱しやすい点です。
これらの改正は令和8年12月の年末調整で精算します。2026年11月までの毎月の給与計算に変更はありません。
「10月から源泉徴収税額が変わるのでは」というご質問をいただくことがありますが、月次の処理はこれまでどおりです。変更が反映されるのは年末調整の段階からとご理解ください。
なお、源泉徴収簿の様式も変更されており、「特定親族特別控除額」欄などが追加されています。手書きや自作のExcelで管理されている場合は、様式の差し替えが必要です。
10月からの準備スケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 10月上旬 | 新様式の入手、給与計算ソフトのアップデート確認 |
| 10月中旬 | 対象者リストの確定(中途入社・退職者の扱いを整理) |
| 10月下旬 | 申告書の配付、記入方法の案内 |
| 11月上旬 | 保険料控除証明書の提出案内(再発行には日数がかかります) |
| 11月中旬 | 回収開始、未提出者への督促 |
| 11月下旬 | 回収期限、内容の点検 |
| 12月 | 年末調整の計算、給与への反映 |
申告書の様式は令和8年6月30日に公表されています。 国税庁のウェブサイトから入手できますので、10月に入ったら早めに準備してください。
従業員への案内で押さえておきたいこと
今年は様式が変わるため、例年どおりに書いてもらうと記入漏れが発生しやすい年です。特に次の点は、配付時に一言添えておくと回収がスムーズになります。
- 19歳〜22歳のお子さんがいる方は、新しい控除の対象になる可能性があります。アルバイト収入の見込みを確認してもらってください
- 保険料控除証明書は10月頃に各保険会社から届きます。紛失した場合の再発行には2週間程度かかることがあるため、早めの確認を促してください
- 中途入社の方は、前職の源泉徴収票が必要です。手元にない場合は前職へ請求してもらう必要があり、時間がかかります
まとめ:10月中のチェックリスト
- □ 令和8年分の新しい申告書様式を入手したか
- □ 給与計算ソフトが令和8年分の改正に対応しているか確認したか
- □ 源泉徴収簿の様式変更に対応したか
- □ 年末調整の対象者リストを確定したか(中途入社・年内退職者の扱いを含む)
- □ 申告書の配付日と回収期限を決めたか
- □ 19歳〜22歳の親族がいる従業員への案内文を用意したか
- □ 保険料控除証明書の早期確認を周知したか
- □ 中途入社者に前職の源泉徴収票の提出を依頼したか
年末調整は、準備の遅れがそのまま12月の残業に跳ね返る業務です。10月のうちに様式と対象者を固めておけば、11月以降の負担はかなり軽くなります。
なお、税額計算そのものについては顧問税理士にご確認ください。当事務所では、申告書の回収フローの整備や、従業員への周知文の作成といった実務面でお手伝いできることがございます。お困りの際はお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年9月時点の公開情報に基づいています。税制改正の内容および申告書の様式は、国税庁の最新の公表資料をご確認ください。個別の税額計算に関するご相談は税理士にお願いいたします。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
