
はじめに
冬の賞与を12月に支給する会社では、10月から11月が準備のヤマ場になります。査定、原資の確定、給与計算ソフトへの設定、そして支給後の届出まで、意外と工程が多い業務です。
賞与は毎年のことだけに手順が固定化しやすく、「去年と同じ」で進めた結果、規程と実態がずれていたというご相談も少なくありません。とくに支給日在籍要件や退職者の扱いは、トラブルになりやすい部分です。
本記事では、支給前に確認しておきたい5つのポイントを、実務の順番に沿って整理します。
① そもそも賞与を支払う義務はあるのか
労働基準法に「賞与を支払わなければならない」という定めはありません。 賞与を支給するかどうか、いくら支給するかは、原則として会社が決められる事項です。
ただし、就業規則や賃金規程に書き方次第で「支払義務」が生じます。
| 規定のしかた | 一般的な扱い |
|---|---|
| 「賞与は毎年◯月に基本給の2か月分を支給する」 | 金額が確定しており、支払義務が生じやすい |
| 「賞与は、会社の業績および本人の勤務成績等を勘案して支給する。ただし、業績の著しい低下等により支給しないことがある」 | 支給の有無・金額に裁量が認められやすい |
業績が悪化した年に支給を見送りたい場合、「支給しないことがある」旨が規程に書かれているかどうかが分かれ目になります。まだ確認されていなければ、支給前のこの時期に一度目を通しておかれることをおすすめします。
② 支給日在籍要件は「規定して周知」が前提です
「賞与は支給日に在籍している者に支払う」という支給日在籍要件は、裁判例でも有効性が認められてきた考え方です。査定期間だけ働いて支給日直前に退職した方への支給を防ぐ意味があります。
ただし、有効とされるには就業規則等に明記され、従業員に周知されていることが前提とされています。「慣行としてそうしている」だけでは、退職者から請求を受けたときに説明が難しくなります。
例外に注意が必要なケース
すべての場面で機械的に適用できるわけではない点にもご留意ください。裁判例では、会社都合の解雇など、退職の時期を労働者が選べなかった場合について、支給日在籍要件をそのまま適用することに慎重な判断が示されたものがあります。定年退職のように退職日があらかじめ決まっているケースも、扱いを規程で明確にしておくのが安全です。
自己都合退職・会社都合退職・定年退職で扱いを分けるのであれば、その区分を規程に書いておくことが実務上のポイントになります。
③ 社会保険料の計算と上限
賞与からも健康保険料・厚生年金保険料が控除されます。計算の基礎となるのは、賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」です。
上限が設けられている点にご注意ください。
| 保険 | 上限 |
|---|---|
| 健康保険・介護保険 | 年度累計573万円(4月1日〜翌年3月31日) |
| 厚生年金保険 | 1か月あたり150万円(同月に複数回支給する場合は合算) |
また、2026年(令和8年)4月から始まった子ども・子育て支援金も、健康保険料とあわせて賞与から徴収されます。被用者保険の支援金率は一律0.23%で、賞与については「標準賞与額 × 0.23%」を労使で折半します。今年の冬の賞与は、この支援金が加わってから初めての冬季賞与という会社が多いはずです。給与計算ソフトが対応済みかどうか、支給前にご確認ください。
退職者・休業者の扱い
- 資格喪失月に支給する賞与(退職日の翌日が属する月の賞与)からは、保険料を控除しません。12月末退職の方に12月に支給する賞与などは、判断を誤りやすいケースです
- 産前産後休業・育児休業中の方は、要件を満たせば賞与の保険料も免除の対象になります。ただし育児休業については、賞与を支払った月の末日を含む「連続した1か月を超える」育児休業を取得している場合に限られます(令和4年10月以降に開始した育児休業)。「賞与月に数日だけ育休を取った」というケースは免除されませんので、月次の保険料免除とは要件が異なる点にご注意ください
④ 所得税は「前月の給与」で税率が決まります
賞与から差し引く源泉所得税は、賞与額そのものではなく、前月に支払った給与をもとに税率を決める仕組みです。
- 前月の給与から社会保険料を引いた金額を求める
- その金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめ、税率を出す
- (賞与額 − 社会保険料)× その税率 = 源泉所得税額
前月に給与の支払いがない場合や、賞与額が前月給与(社会保険料控除後)の10倍を超える場合は、この表ではなく別の方法で計算することとされています。中途入社の方や、休職明けの方で起こりやすいパターンです。
なお、令和8年分は税制改正により算出率の表そのものが改められています。給与計算ソフトが令和8年分の表に更新されているかを、冬の賞与の計算前にご確認ください。
⑤ 支給後の届出を忘れずに
賞与を支給したら、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を年金事務所(または事務センター)へ提出します。給与計算に気を取られて後回しになりやすい手続きです。
あわせて押さえておきたい点が2つあります。
- 賞与を支給しなかった場合も届出が必要です。 登録している賞与支払予定月に支給がなかったときは、「賞与不支給報告書」を提出します
- 年4回以上支給されるものは「賞与」ではありません。 年4回以上の支給は報酬とみなされ、標準報酬月額の計算に含める扱いとなります。決算賞与などを追加で支給する場合は、年間の支給回数にご注意ください
まとめ:冬の賞与の支給前チェックリスト
- □ 賃金規程の賞与条項を読み直したか(「支給しないことがある」旨の記載を含む)
- □ 支給日在籍要件が就業規則等に明記され、周知されているか
- □ 退職事由による扱いの違いを規程で整理しているか
- □ 給与計算ソフトが令和8年分の源泉徴収税額表に対応しているか
- □ 子ども・子育て支援金が賞与計算に反映されているか
- □ 標準賞与額の年度累計が573万円に近い方がいないか確認したか
- □ 資格喪失月に支給する対象者がいないか確認したか
- □ 産休・育休中の保険料免除の対象者を確認したか
- □ 賞与支払届の提出(支給日から5日以内)を予定に入れたか
- □ 支給を見送る場合、賞与不支給報告書の提出を予定に入れたか
賞与は、支給額そのものより「説明のつかない差」がトラブルの原因になりがちです。査定の基準や在籍要件を規程で明確にしておくことが、結果的に会社を守ります。
賞与規程の見直しや、退職予定者への対応でお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
年末に向けた実務の段取りは「【令和8年分】年末調整の準備は10月から」、規程全体の点検は「就業規則、最後に見直したのはいつですか?」もあわせてご覧ください。
※本記事は2026年9月時点の公開情報に基づいています。標準賞与額の上限や保険料率は改定される場合があります。個別の税額計算に関するご相談は税理士にお願いいたします。最新の情報は日本年金機構・国税庁の発表をご確認ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
