
はじめに
10月1日に内定式を終え、ほっとひと息ついている会社も多いのではないでしょうか。ところが、実際に相談が増えるのはむしろこの時期からです。
- 「業績が急に悪くなったので、内定を取り消したい」
- 「内定者が卒業できないかもしれない」
- 「承諾書をもらったのに、辞退の連絡が来た」
内定は「口約束」や「予約」と思われがちですが、法律上は、すでに労働契約が成立していると考えるのが一般的です。 本記事では、内定取消しと内定辞退について、会社が押さえておきたいルールを整理します。
内定は「労働契約の成立」と考えるのが基本です
最高裁の判例(大日本印刷事件・昭和54年)は、採用内定を「始期付・解約権留保付労働契約」と位置づけました。言い換えると、次のような契約です。
- 入社日(4月1日など)から働き始めることを約束した労働契約がすでに成立している
- ただし、一定の理由があれば会社は契約を解約できる権利を留保している
つまり、内定取消しは、法律上は「解雇」に近いものとして扱われます。会社の都合で自由に取り消せるわけではありません。
内定取消しが認められやすいケース・認められにくいケース
判例では、内定取消しが認められるのは、内定の時点では知ることができなかった事実が後からわかり、取り消すことが客観的に合理的で、社会通念上も相当といえる場合に限られるとされています。
| 認められやすい例 | 認められにくい例 |
|---|---|
| 卒業できなかった(卒業が採用条件の場合) | 「なんとなく合わない気がする」 |
| 業務に必要な資格・免許を取得できなかった | 内定後にもっとよい候補者が見つかった |
| 経歴の重大な詐称が判明した | SNSの投稿が気に入らない(業務と無関係なもの) |
| 健康上の理由で働けないことが明らかになった | 業績の一時的な悪化 |
業績悪化を理由とする取消しは、整理解雇と同様に、人員削減の必要性、取消しを避けるための努力、対象者の選び方の合理性、本人への説明といった点から慎重に判断されるのが一般的です。
新卒の内定を取り消すときに必要な手続き
新規学卒者の内定を取り消す場合は、職業安定法施行規則(35条)により、あらかじめハローワークと学校に、所定の様式で通知する必要があります。入社時期を遅らせる(入職時期の繰下げ)場合も同様です。
また、次のいずれかに当てはまる内定取消しは、厚生労働大臣が企業名を公表できる仕組みになっています。
- 2年度以上連続して内定取消しを行った
- 同じ年度に10人以上の内定を取り消した
- 事業活動の縮小を余儀なくされているとは明らかに認められない
- 取消しの理由を十分に説明しなかった
- 対象者の就職先を確保するための支援を行わなかった
ちなみに、2026年3月卒業者の内定取消しは29事業所・80人でした(厚生労働省、2026年8月公表)。件数は多くありませんが、ひとたび起きれば会社の評判を大きく損ないます。やむを得ず取り消す場合には、理由の丁寧な説明、就職先探しの支援、一定の補償を組み合わせて対応するのが現実的です。
内定辞退は、基本的に止められません
一方、内定者のほうから辞退する場合はどうでしょうか。
労働者には職業選択の自由があり、期間の定めのない労働契約は、民法627条により申し出から2週間で終了させることができます。 内定承諾書を受け取っていても、辞退そのものを拒むことは難しいのが実情です。
「研修費用を返してもらいたい」「損害賠償を請求したい」というご相談もありますが、入社前の辞退で賠償が認められるのは、よほど悪質なケースに限られると考えておくのが無難です。また、労働基準法16条により、違約金をあらかじめ定めておくことも禁止されています。
辞退を減らしたいなら、ルールで縛るよりも、入社までの関わり方を工夫するほうが効果的です。
- 月1回程度、近況を伝える連絡を入れる
- 配属予定の部署の先輩と話す機会をつくる
- 入社前に必要な手続き・持ち物を早めに知らせ、不安を減らす
内定期間中の「研修」「課題」にも注意
内定者研修や入社前の課題を課す会社も多いと思います。ここで気をつけたいのが次の2点です。
- 参加を事実上強制している研修は、労働時間にあたる可能性があります。 その場合は賃金の支払いが必要です
- 学業に支障が出るほどの負担を求めることは避け、任意参加であることを明確にしておくのが一般的です
アルバイトとして先に働いてもらう場合は、その時点で通常の労働契約になります。最低賃金や労働条件の明示など、通常の従業員と同じルールが適用されます。
まとめ:内定期間中に会社が確認したいこと
- □ 内定は「労働契約の成立」であり、取消しは解雇に近いと理解しているか
- □ 内定通知書に、取消事由(卒業できない場合など)を具体的に書いているか
- □ 新卒の内定を取り消す場合、ハローワークと学校へ事前に通知する手順を確認したか
- □ 内定辞退には、損害賠償や違約金で対抗しない方針にしているか
- □ 内定者研修が強制になっていないか(強制なら賃金が必要)
- □ 入社までの定期的な連絡の計画を立てたか
内定期間は、会社と内定者の関係が最も不安定になる時期です。トラブルの多くは、「内定はまだ契約ではない」という思い込みから始まります。
試用期間に入ってからのルールについては「試用期間・本採用拒否の実務Q&A」もあわせてご覧ください。
内定取消しを検討せざるを得ない場合や、内定通知書の書き方に不安がある場合は、実際に動く前に、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点で公表されている法令・判例・統計に基づいています。個別の事案では、事情によって判断が異なることがあります。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
