
はじめに
「無断欠勤を繰り返す社員に、減給処分をしたい」
「お客様とトラブルを起こした社員に、始末書を書かせたい」
社員の問題行動に対して、会社は懲戒処分を行うことができます。しかし、手続きや処分の重さを誤ると、処分そのものが無効になることがあります。感情的に「給料を半分にする」と言ってしまい、あとで未払い賃金を請求されたというご相談も少なくありません。
本記事では、懲戒処分を行う前に押さえておきたい基本ルールを整理します。
懲戒処分ができるための3つの前提
① 就業規則に定めがあること
懲戒処分を行うには、就業規則に「どのような行為をしたら」「どのような処分をするか」を定めておく必要があるとされています。常時10人以上の労働者がいる事業場では、制裁の種類と程度を就業規則に書くことが法律で求められています。
② 就業規則を周知していること
規程があっても、社員が見られる状態になっていなければ、懲戒処分の根拠として認められないおそれがあります。
③ 処分が重すぎないこと
労働契約法第15条は、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効としています。行為の内容に比べて重すぎる処分は、無効と判断されるリスクがあります。
懲戒処分の種類
一般的には、軽いものから次のように定めます。
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告・譴責(けんせき) | 口頭・文書で注意する。譴責は始末書の提出を求めることが多い |
| 減給 | 賃金の一部を差し引く(法律上の上限あり) |
| 出勤停止 | 一定期間の出勤を禁じ、その間は無給とする |
| 降格 | 役職や等級を引き下げる |
| 諭旨解雇 | 退職届の提出を促し、応じなければ懲戒解雇とする |
| 懲戒解雇 | もっとも重い処分 |
減給には「2つの上限」があります
減給の制裁は、労働基準法第91条で上限が決められています。
- 1回の額は、平均賃金の1日分の半額まで
- 総額は、1回の賃金支払期の賃金総額の10分の1まで
たとえば、平均賃金が1日1万円の方なら、1つの違反行為に対する減給は5,000円までです。「1か月分の給料を20%カット」「3か月間10%カット」といった処分は、この上限を超えてしまいます。
なお、出勤停止中の無給や、降格による賃金の低下は、この上限の対象外と考えるのが一般的です。ただし、処分の重さとしての相当性は別に問われます。
処分を決める前の手続き
事実を確認し、記録に残す
まずは、いつ・どこで・何があったのかを、本人や関係者から聴き取り、記録に残します。メールや勤怠記録などの客観的な資料もそろえておきます。
本人に弁明の機会を与える
処分を決める前に、本人の言い分を聞く機会を設けることが大切です。就業規則に手続きが定められていなくても、弁明の機会を与えたかどうかは、処分が相当かどうかを判断する際の重要な要素になります。
処分の内容を書面で通知する
対象となった行為、該当する就業規則の条文、処分の内容を書面で伝えます。
よくある3つの落とし穴
- 同じ行為で2回処分する:一度処分した行為を理由に、あらためて処分することはできないと考えるのが一般的です(二重処分の禁止)
- あとから作った規程で処分する:問題行為のあとに追加した懲戒事由で、さかのぼって処分することはできません
- 始末書を出さないことを理由に、さらに処分する:始末書の提出を強制することは難しく、提出しないことだけを理由に重ねて処分するのは慎重に考えるべきとされています
まとめ:懲戒処分の前のチェックリスト
- □ 就業規則に懲戒の事由と種類が定められているか
- □ 就業規則を社員に周知しているか
- □ 減給は「1回で平均賃金の半日分」「総額で賃金の10分の1」の範囲内か
- □ 事実関係を記録に残したか
- □ 本人に弁明の機会を与えたか
- □ 過去の同様の事案と比べて、処分が重すぎないか
- □ 処分の内容を書面で通知したか
懲戒処分は、社員を罰するためではなく、職場の秩序を守るためのものです。手続きを丁寧に踏むことが、結果として会社を守ることにもつながります。
懲戒規定の整備については「就業規則、最後に見直したのはいつですか?」もあわせてご覧ください。個別の事案で処分を検討される場合は、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点の法令・裁判例の一般的な考え方に基づいています。個別の事案の判断は、事実関係によって異なります。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
