
はじめに
10月に入り、インフルエンザの流行が気になる季節になりました。毎年この時期に多いのが、次のようなご相談です。
- 「インフルエンザにかかった社員を休ませたら、給料は払うべき?」
- 「熱が下がったのに、念のため休ませるのはOK?」
- 「家族が感染した社員を自宅待機にしたい」
- 「予防接種の費用を会社で負担してもいい?」
ポイントは、「誰の判断で休んでいるのか」です。本人が働けなくて休むのか、会社が休ませるのかで、賃金の扱いが変わります。流行が本格化する前に、社内のルールを整理しておきましょう。
前提:季節性インフルエンザは、法律上の「出勤禁止」ではありません
学校には、学校保健安全法による「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過するまで」という出席停止の基準があります。ところが、会社員にはこのような法律上の出勤禁止の定めはありません。
労働安全衛生規則にも病者の就業禁止の規定がありますが、季節性インフルエンザは通常これに当たらないと解されています。新型コロナウイルス感染症も、2023年5月に5類感染症へ移行してからは、法律に基づく就業制限はなくなりました。
つまり、「インフルエンザだから休ませる」は、法律ではなく会社の判断ということになります。ここが賃金の扱いを考える出発点です。
ケース別:休業手当が必要かどうか
労働基準法26条は、会社の責任による休業の場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払うよう定めています。これをもとに、ケースごとに整理すると次のとおりです。
| ケース | 休業手当 | 考え方 |
|---|---|---|
| ① 本人が発熱し、働けないので休む | 不要 | 本人の病気による欠勤。有給休暇を使うかは本人が選ぶ |
| ② 感染が確認されたが、本人は働ける状態。会社が休ませる | 必要とされることが多い | 会社の判断による休業 |
| ③ 熱が下がったが、会社が「念のため」休ませる | 必要とされることが多い | 同上 |
| ④ 家族が感染。本人は元気だが、会社が自宅待機を命じる | 必要 | 会社の判断による休業 |
| ⑤ 医師の指示により、本人が休む | 不要とされることが多い | 本人の療養のための欠勤 |
①⑤のように、本人が病気で働けないときは、通常の欠勤です。会社が賃金を支払う義務はありません。
一方、②〜④のように働ける状態の人を、会社の判断で休ませる場合は、感染拡大を防ぐための合理的な措置であっても、休業手当の支払いが必要と考えるのが一般的です。
有給休暇を使わせるのはNG
「休ませた日は有給休暇で処理すればいい」と考えがちですが、会社が一方的に有給休暇を充てることはできません。 年次有給休暇は、本人が申し出て使うものです。本人が希望して有給休暇を使うのは問題ありません。
本人が休む場合は、傷病手当金も選択肢に
本人が病気で連続して休む場合、連続3日間の待期を経て、4日目から健康保険の傷病手当金の対象になります。インフルエンザで1週間ほど休む場合にも該当することがあるので、本人に案内しておくと親切です。
社内ルールとして決めておきたいこと
流行が始まってから慌てないよう、次の点をあらかじめ決めて周知しておくのがおすすめです。
- 感染したときの連絡先と報告方法(誰に、何を伝えるか)
- 出勤再開の目安(例:「発症後5日かつ解熱後2日」を参考にする、など)
- 治癒証明書を求めるかどうか(医療機関の負担や本人の費用を考え、求めない会社も増えています)
- 会社が休ませる場合の賃金の扱い(休業手当として60%とするか、特別休暇として100%とするか)
- 家族が感染した場合の扱い(在宅勤務で対応するのか、自宅待機とするのか)
④のように元気な人を休ませるケースでは、在宅勤務ができる職種であれば在宅勤務を命じることで、休業手当の問題自体を避けられることもあります。
予防接種の費用を会社が負担する場合
予防接種の費用を会社で負担するのは、感染による欠員を防ぐうえで効果的な方法です。費用は一般的に福利厚生費として処理されます。従業員側が給与として課税されないためには、次の点を満たしておくことが一般的に求められます。
- 役員など一部の人に限らず、希望する従業員全員を対象にする
- 金額が社会通念上、相当な範囲である
- 接種は本人の任意とする(強制はしない)
予防接種を業務命令で義務づけることは、原則として難しいと考えてください。持病や体質により接種できない方もいます。接種しないことを理由に不利益に取り扱うのは避けるべきです。
なお、税務の具体的な取扱いについては、顧問税理士にもご確認ください。
まとめ:流行シーズン前のチェックリスト
- □ 「本人が休む」と「会社が休ませる」で賃金の扱いが違うことを理解しているか
- □ 会社が休ませる場合の休業手当(平均賃金の60%以上)を想定しているか
- □ 有給休暇を会社が一方的に充てていないか
- □ 感染時の連絡方法・出勤再開の目安を周知しているか
- □ 家族が感染した場合の扱い(在宅勤務・自宅待機)を決めているか
- □ 予防接種の費用補助は、全員を対象・任意接種としているか
感染症の対応は、「決めておくこと」と「伝えておくこと」で、現場の迷いと従業員の不満をかなり減らせます。
就業規則への感染症休業の定め方や、休業手当の計算方法についてお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点で公表されている法令・行政解釈に基づいています。休業手当の要否は、個別の事情によって判断が異なることがあります。予防接種費用の税務上の取扱いは、税理士または所轄の税務署にご確認ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
