
はじめに
厚生労働省は、毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」と定めて集中的な広報を行っています。なぜ10月なのか。それは、次年度の年次有給休暇の計画的付与について、労使で話し合いを始めるのにちょうどよい時期だからです。
年5日の取得義務については「有給休暇の年5日取得、年度後半の点検」でご紹介しました。今回はその一歩先、「毎年追いかけ回さなくて済む仕組み」をつくる話です。
毎年12月や3月になって「あと2日足りない人がいる」と慌てている会社にこそ、読んでいただきたい内容です。
取得率は過去最高の66.9%。それでも目標には届いていません
厚生労働省の令和7年「就労条件総合調査」によると、年次有給休暇の取得状況は次のとおりです。
| 項目 | 結果 | 前年 |
|---|---|---|
| 労働者1人平均取得率 | 66.9%(過去最高) | — |
| 労働者1人平均取得日数 | 12.1日(過去最多) | 11.0日 |
| 労働者1人平均付与日数 | 18.1日 | 16.9日 |
取得率は昭和59年の調査開始以降で過去最高を更新しました。一方、政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で、令和10年までに取得率70%という目標を掲げています。あと3ポイント強が残っています。
数字の見方として大切なのは、付与日数も増えている点です。分母が増えているなかで取得率が上がっているということは、実際の休暇日数はそれ以上に伸びていることを意味します。求職者から見れば、有給休暇の取得しやすさは会社選びの判断材料のひとつです。
計画的付与制度とは
計画的付与制度は、年次有給休暇の付与日数のうち5日を除いた残りの日数について、労使協定を結べば、会社が取得日をあらかじめ割り振れるという仕組みです。
たとえば付与日数が18日の方であれば、5日は本人の自由に残したうえで、最大13日までを計画的に割り当てられます。
3つの方式
| 方式 | 内容 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 一斉付与 | 全社で同じ日に休む | 製造業、工場など操業を止められる会社 |
| 班別・交替制 | 部署やグループごとに時期をずらす | 窓口業務など、交替で対応できる会社 |
| 個人別 | 個人ごとに計画表を作る | 職種が多様な会社、少人数の会社 |
中小企業で使いやすいのは、年始や夏季休暇の前後に1〜2日を一斉付与する方式や、誕生月や勤続記念日に個人別で割り当てる方式です。いきなり13日を割り振る必要はありません。
経営者にとっての最大のメリット
計画的付与の本当の価値は、年5日の取得義務が自動的にクリアされる点にあります。
計画的付与によって取得させた日は、年5日の取得義務の日数に算入されます。つまり、一斉付与で3日を割り当てておけば、会社が個別に管理すべき残りは2日だけになります。
年5日の取得義務に違反すると、対象となる労働者1人につき30万円以下の罰金の対象となります。100人の会社で全員が未達であれば、理論上は非常に大きな金額になります。この管理を、年に一度の労使協定で済ませられるというのが、計画的付与の実務上の意味です。
あわせて、次のような副次的な効果も期待できます。
- 休暇の時期が読めるため、業務の段取りが立てやすい
- 「休みにくい」という空気が和らぎ、周囲への遠慮がなくなる
- 取得率が数字として示せるため、採用の場面で説明材料になる
導入の手順は2つだけ
① 就業規則に規定する
まず、就業規則に計画的付与の根拠を置きます。記載例は次のとおりです。
> 第○条 労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して与えることがある。
② 労使協定を結ぶ
次に、労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれがない場合は労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を結びます。
協定に定めておきたい事項は、次のとおりです。
- 対象者の範囲(付与日数が少ない人の取扱いを含む)
- 対象となる日数
- 具体的な取得日、または計画表の作成手続きと時期
- 対象者から除外する場合の取扱い
この労使協定は、労働基準監督署への届出は不要です。36協定と違い、社内に保管しておけば足ります。
見落としやすい2つの注意点
① 付与日数が少ない人への配慮が必要です
入社間もない方や、パートで比例付与を受けている方は、付与日数が5日〜10日程度にとどまります。付与日数が5日以下の方には、計画的付与を行う余地がありません。
こうした方について一斉付与の日に出勤させると、その日だけ人が残ることになり現実的ではありません。実務上は、特別休暇(有給の休業日)として扱うか、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払って休業とするかのいずれかで対応するのが一般的です。協定を結ぶ前に、必ず人数を確認してください。
② 一度決めたら、原則として変更できません
計画的付与で指定した日は、会社も労働者も、一方的には変更できないのが原則です。本人が「その日は出勤したい」と言っても、時季変更権は及びません。
繁忙期の見込みが立てにくい会社は、一斉付与の日数を1〜2日にとどめる、あるいは個人別方式で計画表の作成時期を四半期ごとにするといった設計で、柔軟性を残しておくとよいでしょう。
時間単位年休という選択肢も
「丸一日は休みにくい」という声がある会社では、時間単位の年次有給休暇(年5日以内)を併用する方法もあります。通院や学校行事といった用事に使いやすく、取得率の底上げにつながります。こちらも労使協定が必要です。
ただし、時間単位で取得した分は、年5日の取得義務にはカウントされません。 義務対応の手段としてではなく、働きやすさを高める仕組みとしてお考えください。
まとめ:10月中に始めたいこと
- □ 直近1年の、従業員ごとの有給取得日数を集計したか
- □ 来年度の繁忙期・閑散期の見通しを立てたか
- □ 一斉付与の候補日(年始・夏季休暇の前後など)を2〜3日挙げたか
- □ 付与日数が5日以下になる従業員の人数を確認したか
- □ 就業規則に計画的付与の規定があるか確認したか
- □ 労働者代表を、適正な手続き(投票・挙手等)で選出できる見通しがあるか
年5日の取得義務は、追いかけて管理するより、先に埋めてしまうほうが確実で、手間もかかりません。 10月は、その設計を始めるのにちょうどよい時期です。
計画的付与の設計、労使協定や就業規則の整備についてお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点の法令および厚生労働省の公表資料(令和7年就労条件総合調査)に基づいています。個別の制度設計については専門家にご相談ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
