
はじめに
毎年11月は、厚生労働省が定める「過労死等防止啓発月間」です。この月間にあわせて、全国の労働基準監督署が「過重労働解消キャンペーン」を実施し、長時間労働が疑われる事業場への重点監督を行っています。
「うちは小さい会社だから関係ない」と思われがちですが、監督の対象に企業規模の区別はありません。また、キャンペーンの時期に限らず、労基署の調査で確認されるポイントはほぼ共通しています。
本記事では、11月を前に、会社が自分で点検しておきたい5つのポイントを整理します。
過重労働解消キャンペーンとは
キャンペーンでは、例年次のような取組みが行われています。
| 取組み | 内容 |
|---|---|
| 重点監督 | 長時間労働が疑われる事業場、過労死等の労災請求があった事業場などへの監督指導 |
| 電話相談 | 無料の「過重労働解消相談ダイヤル」で、従業員からの相談を受け付け |
| 啓発 | セミナーやポスター等による周知 |
注目したいのは電話相談です。従業員やその家族が直接相談できるため、会社が気づかないうちに、労基署に情報が届くことがあります。社内で長時間労働の不満がくすぶっている場合は、早めに手を打っておきたいところです。
点検1:労働時間を「客観的な方法」で把握しているか
会社には、従業員の労働時間を客観的な方法で把握する義務があります(労働安全衛生法)。管理監督者や裁量労働制の対象者も含まれる点にご注意ください。
客観的な方法の例は次のとおりです。
- タイムカード、ICカード
- パソコンのログイン・ログオフの記録
- 勤怠管理システムの打刻
自己申告制は、やむを得ない場合の例外とされています。自己申告にしている場合は、申告された時間とパソコンのログなどに大きな差がないかを確認しておきましょう。差があれば、「申告していない残業」が疑われます。
点検2:36協定の上限を超えていないか
時間外労働には、法律上の上限があります。
| 区分 | 上限 |
|---|---|
| 原則 | 月45時間・年360時間 |
| 特別条項がある場合 | 年720時間以内 |
| 〃 | 時間外+休日労働が月100時間未満 |
| 〃 | 時間外+休日労働の2〜6か月平均が80時間以内 |
| 〃 | 月45時間を超えられるのは年6か月まで |
見落としやすいのが、「複数月平均80時間以内」と「年6か月まで」です。月ごとの集計だけを見ていると、気づかないうちに違反していることがあります。年度の折り返しを過ぎたこの時期に、4月からの累計を一度確認しておくのがおすすめです。
点検3:割増賃金を正しく払っているか
長時間労働の調査では、あわせて割増賃金の未払いも確認されます。特に次の点は、指摘が多いところです。
- 月60時間を超える時間外労働の割増率が50%以上になっているか(2023年4月から中小企業にも適用)
- 固定残業代を超えた分の残業代を、差額として支払っているか
- 「15分未満切り捨て」など、労働時間を一律に切り捨てる処理をしていないか
1日ごとの労働時間の端数を切り捨てる処理は、原則として認められません。 1か月の合計で30分未満を切り捨てる、といった一定の処理だけが例外とされています。
点検4:長時間労働者への「医師の面接指導」の仕組みがあるか
時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員から申出があった場合、会社は医師による面接指導を行わなければなりません。これは従業員50人未満の事業場でも同じです。
- 月80時間を超えた従業員に、その旨を本人に通知しているか
- 面接指導を申し出る方法を周知しているか
- 面接指導を頼む医師を確保しているか
産業医のいない小規模事業場では、地域産業保健センターで面接指導を無料で受けられる場合があります。
点検5:「持ち帰り残業」「名ばかり管理職」がないか
記録上の労働時間が少なくても、実態として長時間労働になっているケースがあります。
- 自宅で業務をしていないか(会社が指示・黙認していれば労働時間と判断されることがあります)
- 「店長」「課長」などの肩書きだけで、管理監督者として扱っていないか
管理監督者として残業代の対象外とするには、経営者と一体的な立場、出退勤の自由、地位にふさわしい待遇といった実態が必要です。肩書きだけでは認められません。
まとめ:11月の前に確認したいチェックリスト
- □ 労働時間を、タイムカードやログなどの客観的な方法で把握しているか
- □ 自己申告の時間と、パソコンのログなどに大きな差がないか
- □ 4月からの累計で、36協定の上限(年720時間・平均80時間・年6回)を超えていないか
- □ 月60時間超の割増率50%、固定残業代の差額を正しく払っているか
- □ 労働時間を1日ごとに切り捨てていないか
- □ 月80時間超の従業員への通知と、医師の面接指導の仕組みがあるか
- □ 持ち帰り残業や名ばかり管理職がないか
過重労働解消キャンペーンは、会社にとって労務管理を見直すよい機会でもあります。指摘を受けてから直すより、自分たちで先に点検しておくほうが、ずっと負担は小さく済みます。
36協定そのものの点検については「労基署の残業指導が変わりました|36協定の点検ポイント」もあわせてご覧ください。
労働時間の管理方法や、労基署の調査への備えについてお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点で公表されている法令・資料に基づいています。2026年度のキャンペーンの具体的な内容は、厚生労働省の発表をご確認ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
