
はじめに
「週末だけ別のお店で働きたい」「夜にアルバイトを始めたい」。従業員からこうした申し出を受ける機会は、確実に増えています。厚生労働省も、2018年から副業・兼業を促進する方向に舵を切っています。
ところが、副業を認めるときに見落とされやすいのが労働時間の通算です。副業先で働いた時間も合わせて計算するため、自社では残業させていないのに、割増賃金の支払い義務が生じることがあります。
本記事では、現行のルールと、見直しに向けた議論の状況、会社が今やっておきたいことを整理します。
現行ルール:労働時間は「通算」して計算します
労働基準法38条1項は、事業場が異なる場合でも、労働時間は通算すると定めています。行政の解釈では、これは会社が別の場合(副業先)にも適用されます。
どちらの会社が割増賃金を払うのか
通算の順番は、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で次のように整理されています。
- まず、所定労働時間を、労働契約を先に結んだ順に通算する
- 次に、所定外労働(残業)を、実際に行われた順に通算する
- 通算して法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた部分について、その超えた時間を働かせた会社が割増賃金を支払う
例:本業A社(先に契約)で1日7時間、副業B社(後から契約)で1日3時間
| 所定労働時間 | 通算 | |
|---|---|---|
| A社(先) | 7時間 | 7時間 |
| B社(後) | 3時間 | 10時間 → 2時間が法定外 |
この場合、法定の8時間を超える2時間は後から契約したB社の労働時間にあたり、B社が割増賃金を支払うことになります。
つまり、副業として従業員を受け入れる側の会社は特に注意が必要です。「本業がある人をアルバイトで雇う」場合には、相手の所定労働時間を確認しないと、知らないうちに割増賃金の未払いが生じかねません。
手間を減らす「管理モデル」
ガイドラインでは、各社があらかじめ自社で働かせる時間の上限を決めておき、その範囲内で働かせる「管理モデル」という簡便な方法も示されています。
- A社は自社の法定外労働時間について、B社は自社の労働時間すべてについて、割増賃金を支払う
- そのかわり、副業先の実際の労働時間を毎回把握しなくてもよい
両社とも、上限を守っている限りは労働基準法に違反しない仕組みです。ただし、A社とB社の双方の合意が必要になります。
見直しの議論:割増賃金の通算はなくなる方向
この通算ルールは「仕組みが複雑で、副業を認めにくくしている」という指摘が多く、見直しが議論されています。
厚生労働省の研究会が2025年1月に公表した報告書と、その後の労働政策審議会での議論では、次の方向性が示されています。
- 割増賃金の計算では、副業先の労働時間を通算しない(各社が自社の労働時間だけで計算する)
- 健康確保のための労働時間の把握・通算は維持する
ただし、労働基準法の改正法案は2026年の通常国会への提出が見送られました。 現在も審議が続いており、法改正が実現するまでは、現行の通算ルールが適用されます。 「もうすぐ変わるから」と通算を省略するのは避けてください。
会社が今やっておきたいこと
1. 就業規則に副業・兼業の規定を置く
厚生労働省のモデル就業規則では、原則として副業・兼業を認め、例外的に制限できる場合を定める形になっています。制限できる典型例は次のとおりです。
- 労務の提供に支障がある場合
- 業務上の秘密が漏れる場合
- 競業により会社の利益を害する場合
- 会社の名誉や信用を損なう場合
全面的に禁止する規定は、トラブルになったときに合理性を問われやすいと考えておくのが一般的です。
2. 届出の様式を作る
副業を始めるときに、次の内容を届け出てもらう様式を用意しておきましょう。
- 副業先の名称・業務内容
- 雇用か、業務委託・自営か(業務委託なら労働時間の通算は不要)
- 副業先の所定労働日・所定労働時間
- 副業の開始時期
3. 健康状態に気を配る
法改正後も、健康確保のための労働時間の把握は続く方向です。長時間労働になっていないか、定期的に確認する仕組みをつくっておけば、改正の有無にかかわらず役に立ちます。
まとめ:副業を認めるときのチェックリスト
- □ 副業先の労働時間も通算されることを理解しているか
- □ 契約の先後によって、割増賃金を払う会社が変わることを把握しているか
- □ 副業として人を受け入れる場合に、本業の所定労働時間を確認しているか
- □ 就業規則に副業・兼業の規定(原則許可・例外制限)があるか
- □ 届出の様式(雇用か業務委託か、労働時間)を用意しているか
- □ 法改正までは現行の通算ルールを守る方針にしているか
副業・兼業は、人材の確保や従業員の定着につながる面もある制度です。ルールを整えたうえで、上手に付き合っていきたいところです。
就業規則への副業・兼業の規定の追加については「就業規則、最後に見直したのはいつですか?」もあわせてご覧ください。
副業・兼業の規定づくりや労働時間の管理方法についてお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年10月時点で公表されている法令・ガイドライン・審議会の資料に基づいています。労働基準法の改正は審議中であり、今後の動向によって内容が変わる可能性があります。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
