
はじめに
「労働基準法が40年ぶりに大改正される」——2025年にはそんな報道が相次ぎ、14日以上の連続勤務の禁止や、勤務間インターバルの義務化といった具体的な論点も話題になりました。
ところが、2026年の通常国会への法案提出は見送られ、その後は「規制の強化」だけでなく「柔軟化」も含めて議論を練り直す流れになっています。「結局どうなったのか」「何か準備しておくべきなのか」と気になっている経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、2026年9月時点での議論の経緯と主な論点を整理し、法改正の行方にかかわらず、今のうちに見直しておきたいポイントをお伝えします。
これまでの経緯
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2025年1月 | 厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表 |
| 2025年 | 労働政策審議会(労働条件分科会)で議論 |
| 2025年10月 | 首相が厚生労働大臣に、心身の健康維持と働く人の選択を前提とした「労働時間規制の緩和」の検討を指示 |
| 2025年12月 | 厚生労働大臣が、2026年の通常国会への法案提出は考えていないと表明 |
| 2026年7月 | 「骨太の方針2026」が閣議決定。労働時間法制等について夏以降の労働政策審議会で議論する方針が示される |
2026年9月16日開催の労働条件分科会でも「労働基準関係法制について」が議題に掲げられており(本記事執筆時点)、議論は続いています。ただし、法案の提出時期や施行時期は、現時点では決まっていません。
研究会報告書で示された主な論点
議論の出発点となっている2025年1月の研究会報告書では、次のような方向性が示されました。
| 論点 | 報告書で示された方向性 |
|---|---|
| 連続勤務 | 13日を超える連続勤務をさせてはならない旨の規定を設けるべき |
| 法定休日 | あらかじめ法定休日を特定することを法律上に規定すべき |
| 勤務間インターバル | 義務化も視野に入れた導入促進を検討 |
| つながらない権利 | 社内ルールづくりに役立つガイドラインの策定等を検討 |
| 年次有給休暇の賃金 | 原則として「通常の賃金」で支払う方式にしていくべき |
| 副業・兼業 | 健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の計算では通算を要しないよう見直し |
| 週44時間の特例 | 小規模な商業・接客娯楽業などの特例は、撤廃に向けて検討 |
いずれも「決まったこと」ではなく、あくまで検討の方向性である点にご注意ください。
「強化」一辺倒から、「柔軟化」も含めた議論へ
2026年7月に閣議決定された骨太の方針では、次のような検討事項が並びました。
- 裁量労働制について、健康確保・長時間労働防止・適切な処遇を前提に、対象の在り方を見直す
- 変形労働時間制についても、実態や予見可能性に留意して検討する
- 連続勤務規制、勤務間インターバル制度の法的位置付け、「つながらない権利」の在り方、副業・兼業の健康確保、テレワークの活用等について検討する
研究会報告書の論点(連続勤務、インターバル、つながらない権利など)も引き続き検討事項に残っています。そのうえで、裁量労働制の見直しなど「働き方の選択肢を広げる」方向の論点が加わったのが、この1年の大きな変化といえます。
なお、この方針では労働基準監督署の指導についても「労使合意にのっとった指導」への見直しが掲げられ、2026年9月からは「月45時間以内」の一律指導が見直されています。
いま準備しておきたい5つのこと
法改正の中身がどう決まっても、次の5点は現行法のもとでも労務管理の基本です。今のうちに整えておけば、改正への対応も楽になります。
① 法定休日を就業規則で特定しているか
「週休2日のうち、どちらが法定休日か」が決まっていないと、休日労働の割増賃金(35%)の計算があいまいになります。特定の義務化が検討されている今こそ、規程で明確にしておくのがおすすめです。
② 連続勤務の実態を把握しているか
現行法でも、4週間に4日の休日を与える「変形休日制」を使えば、長い連続勤務が法律上は可能です。シフト制の職場では、実際に何連勤が発生しているかを一度確認してみてください。
③ 勤務間インターバルを検討しているか
終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する制度で、現在は努力義務です。導入に取り組む中小企業向けに、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)も用意されています。
④ 有給休暇の賃金の計算方法を確認しているか
年次有給休暇の賃金は、「通常の賃金」「平均賃金」「標準報酬日額(労使協定が必要)」のいずれかで支払います。どの方式を採用しているか、就業規則の記載と実態が一致しているかを確認しておきましょう。
⑤ 副業・兼業の申告ルールを整えているか
割増賃金の通算ルールが見直されても、健康確保のための労働時間の把握は維持される方向です。副業の届出制や、労働時間の申告方法をルール化しておくことは、改正の有無にかかわらず有効です。
まとめ:今から確認したいチェックリスト
- □ 就業規則で法定休日を特定しているか
- □ シフト上、長い連続勤務が発生していないか
- □ 勤務間インターバルの導入を検討したか
- □ 有給休暇の賃金の計算方法が規程と実態で一致しているか
- □ 副業・兼業の届出や労働時間の申告ルールがあるか
- □ 36協定の内容と、健康・福祉確保措置の実施状況を確認しているか
大きな法改正は、決まってから慌てて対応すると、規程の改定や従業員への説明が後手に回りがちです。「どちらに転んでも困らない状態」を先につくっておくことが、中小企業にとって現実的な備えといえます。
36協定の点検については「労基署の残業指導が変わりました|「月45時間以内」一律指導の見直しと36協定の点検ポイント」、規程全体の見直しについては「就業規則、最後に見直したのはいつですか?」もあわせてご覧ください。
法改正の動きは、方向性が固まり次第、このブログで改めてお知らせします。自社の労働時間管理や就業規則についてご不安な点がございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年9月13日時点の公開情報(労働基準関係法制研究会報告書、経済財政運営と改革の基本方針2026等)に基づいています。記載した論点は検討段階のものであり、今後の審議により内容が変わる可能性があります。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
