
はじめに
「健康診断は毎年やっているから大丈夫」——そう考えている会社でも、よく聞いてみるとパートの対象範囲があいまいだったり、結果を受け取ったまま保管しているだけだったりすることがあります。
健康診断は、実施すること自体よりも、誰に受けさせるか、結果を受けて何をするかのほうに、見落としが起きやすい制度です。
秋は健康診断を実施する会社が多い時期です。本記事では、会社に求められる義務を、実施前・実施後の順に整理します。
会社に実施義務がある健康診断
労働安全衛生法では、事業者に次のような健康診断の実施を義務づけています。
| 種類 | 対象 | 時期 |
|---|---|---|
| 雇入時の健康診断 | 常時使用する労働者 | 雇い入れの際 |
| 定期健康診断 | 常時使用する労働者 | 1年以内ごとに1回 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 深夜業など特定の業務に常時従事する労働者 | 配置替えの際と6か月以内ごとに1回 |
| 特殊健康診断 | 有機溶剤・鉛など有害業務に従事する労働者 | 業務に応じて定められた時期 |
実施しなかった場合は50万円以下の罰金の対象とされています。なお、従業員側にも健康診断を受ける義務があります。
対象になるパート・アルバイト
「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、次の2つの要件をいずれも満たすパート・アルバイトが含まれるとされています。
- 期間の定めのない契約、または1年以上使用することが予定されている(契約更新により1年以上使用されている場合を含む)
- 週の所定労働時間が、同種の業務に従事する正社員の4分の3以上
また、1の要件を満たし、2の労働時間がおおむね2分の1以上である場合も、実施することが望ましいとされています。「パートは全員対象外」という運用になっていないか、一度確認しておきましょう。
費用と受診時間の賃金
費用は会社が負担します
法律で実施が義務づけられている健康診断の費用は、事業者が負担すべきものとされています。「自分で受けてきて、費用も自分で」という扱いは避けてください。
受診時間の賃金は「支払うことが望ましい」
一般の健康診断(雇入時・定期健康診断など)を受診している時間の賃金は、労使で協議して定めるべきものとされ、支払わなくても直ちに違法とはされていません。ただし、支払うことが望ましいとの考え方が示されています。
一方、特殊健康診断は業務の遂行に関して行われるものであるため、受診時間は労働時間として扱われます。所定時間外に実施した場合は、割増賃金の支払いが必要です。
扱いがあいまいだと不満の原因になりますので、就業規則などで取り扱いを明確にしておくことをおすすめします。
健康診断の後に会社がやるべきこと
実は、健康診断でもっとも見落とされやすいのが実施後の対応です。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 本人への結果通知 | 健康診断の結果を、遅滞なく本人に通知する |
| 記録の保存 | 健康診断個人票を作成し、5年間保存する |
| 医師からの意見聴取 | 異常の所見がある人について、健康診断から3か月以内に、就業上の措置について医師の意見を聴く |
| 就業上の措置 | 医師の意見を踏まえ、必要に応じて作業の転換、労働時間の短縮などを行う |
| 保健指導 | 特に健康の保持に努める必要がある人に、医師や保健師による保健指導を行うよう努める |
| 労働基準監督署への報告 | 常時50人以上の事業場は、定期健康診断結果報告書を提出する |
50人以上の事業場の結果報告は、2025年1月から電子申請が原則義務化されています。
中小企業で産業医がいない場合は、健康診断を実施した医療機関や、地域産業保健センター(無料)を利用して医師の意見を聴く方法があります。
受診しない従業員への対応
「忙しい」「持病で通院しているから」と受診しない従業員もいます。従業員には受診義務があり、会社が指定した医療機関以外で受診し、その結果を提出することも認められています。
まずは受診の必要性を説明し、それでも受けない場合は書面で受診を促し、記録を残しておくのが一般的です。懲戒処分を検討する場合は、就業規則の定めや、それまでの受診勧奨の経緯を踏まえて慎重に判断する必要があります。
今後の変更にも注目を
厚生労働省の検討会は2025年12月、一般健康診断について血清クレアチニン検査の追加、喀痰検査の廃止、そして月経困難症や更年期障害など女性特有の健康課題に関する問診の追加を適当とする最終報告をまとめました。実施時期は今後の審議を経て決まる見込みですので、動きがあれば改めてお知らせします。
まとめ:健康診断のチェックリスト
- □ 対象となるパート・アルバイト(1年以上・4分の3以上)を漏れなく把握しているか
- □ 深夜業など、6か月ごとの健康診断が必要な従業員がいないか
- □ 健康診断の費用を会社が負担しているか
- □ 受診時間の賃金の扱いを就業規則等で明確にしているか
- □ 結果を本人に通知し、個人票を5年間保存しているか
- □ 異常の所見がある人について、3か月以内に医師の意見を聴いているか
- □ 50人以上の事業場は、結果報告書を電子申請で提出しているか
- □ 未受診者への受診勧奨を記録に残しているか
健康診断は、従業員の健康を守ると同時に、会社の安全配慮義務を果たしているかどうかを示す記録にもなります。実施後の対応まで含めて、仕組みとして回るようにしておきましょう。
長時間労働やメンタル不調への対応については「従業員がメンタル不調で休むことになったら」、高年齢の従業員の働き方については「定年後再雇用の賃金、その決め方で大丈夫ですか」もあわせてご覧ください。
健康診断の対象者の整理や、就業規則への定め方などでご不明な点がございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。
※本記事は2026年9月13日時点の公開情報に基づいています。有害業務に係る特殊健康診断の対象や時期は業務の内容により異なります。個別のケースについては、労働基準監督署や専門家にご確認ください。
社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳
