労災の3件に1件は60歳以上|2026年4月から努力義務になった「高年齢労働者の労災防止」、中小企業が始めたい5つの対策

労災の3件に1件は60歳以上|2026年4月から努力義務になった「高年齢労働者の労災防止」、中小企業が始めたい5つの対策

はじめに

「ベテランだから安心」と思っていた60代の社員が、何もない通路で転んで骨折し、長期の休業に――。こうしたケースは、決して珍しくありません。

2024年には、休業4日以上の労働災害にあう人のうち、60歳以上の割合が初めて3割を超えました。 定年後の再雇用や65歳以上の雇用が広がるなか、高年齢の社員の安全対策はどの会社にとっても身近な課題です。

こうした状況を受けて、2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、高年齢労働者の労働災害を防止するための措置が事業者の努力義務になりました。 あわせて、厚生労働省から「高年齢者の労働災害防止のための指針」(2026年2月10日公示)が示されています。本記事では、そのポイントと中小企業が取り組みやすい対策を整理します。

何が変わったのか

これまでも厚生労働省は「エイジフレンドリーガイドライン」を示し、自主的な取組を促してきました。ただし、これは行政指導上のガイドラインにとどまっていました。

今回の改正で、労働安全衛生法に「高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない」という規定(第62条の2)が設けられ、ガイドラインは法律に基づく「指針」に格上げされました。

努力義務ですので、取り組まなかったことで直ちに罰則があるわけではありません。ただし、高年齢の社員が労災にあった場合、会社が必要な配慮をしていたかどうかは、安全配慮義務の観点から問われることになります。

高年齢の社員に多い労災

高年齢の社員の労災で特に多いのが、転倒と腰痛です。加齢によって筋力やバランス感覚、視力が低下するため、若い頃には何でもなかった段差や床の濡れが、大きなけがにつながります。また、けがをした場合の休業期間が長くなりやすいのも特徴です。

本人も「自分はまだ大丈夫」と感じていることが多く、身体機能の変化に本人も会社も気づきにくい点に注意が必要です。

指針が示す5つの対策

指針では、事業者が取り組む措置として、次の5つが示されています。

対策具体例
① 安全衛生管理体制の確立経営トップが方針を表明する。担当者を決め、職場の危険を洗い出す(リスクアセスメント)
② 職場環境の改善通路の照明を明るくする、段差をなくす・目立たせる、滑りにくい床材や靴を使う、重い物の持ち上げを補助具で減らす
③ 健康や体力の状況の把握定期健康診断の結果を活用する。体力チェックで自分の体力を知ってもらう
④ 健康や体力の状況に応じた対応体力に合わせた業務の割り当て、作業時間や休憩の調整
⑤ 安全衛生教育転倒しやすい場所などを、写真や図を使って繰り返し伝える

すべてを一度に行う必要はありません。自社の職場の実情に合わせて、優先順位をつけて取り組むことが大切です。

中小企業がまず取り組みたいこと

「何から手をつければよいか分からない」という場合は、次の3つから始めるのがおすすめです。

職場を一緒に歩いて「危ない場所」を探す

高年齢の社員と一緒に職場を歩き、つまずきやすい段差、暗い通路、滑りやすい床などを確認します。本人たちの「ここが怖い」という声は、もっとも実践的なリスク情報です。

体力チェックで「気づき」をつくる

片足立ちや歩行速度などの簡単な体力チェックで、本人が自分の体力の変化に気づくきっかけをつくります。結果は評価や処遇に使うものではなく、安全対策のために使うものであることを、あらかじめ伝えておきましょう。

再雇用時に「仕事内容」を見直す

定年後の再雇用のタイミングは、体力に応じた業務の割り当てを考える良い機会です。重量物の運搬や高所作業などを見直し、経験を活かせる指導役などに役割を移すことも一つの方法です。

設備改善には費用がかかることもあります。中小企業向けに、高年齢者の安全対策の費用を補助する「エイジフレンドリー補助金」が公募されている年度もありますので、最新の公募状況を確認してみてください。

まとめ:高年齢労働者の安全対策チェックリスト

  • □ 60歳以上の社員の人数と、担当業務を把握しているか
  • □ 高年齢の社員と一緒に、職場の危険箇所を確認したか
  • □ 照明・段差・床の滑りなど、転倒の原因を減らす対策をしているか
  • □ 健康診断の結果を、業務の割り当てに活かしているか
  • □ 体力チェックなど、本人が体力の変化に気づく機会があるか
  • □ 再雇用の際に、仕事内容や作業時間を見直しているか

高年齢の社員は、経験と技能を持つ会社にとって大切な戦力です。安全に長く働いてもらうための環境づくりは、人手不足の時代の人材確保策でもあります。

定年後再雇用の賃金については「定年後再雇用の賃金、その決め方で大丈夫ですか」、健康診断の実務は「秋の定期健康診断、会社の義務はどこまで?」もあわせてご覧ください。

高年齢の社員の働き方や、再雇用時の労働条件の見直しについてお困りのことがございましたら、詳細はお気軽に当事務所までご相談ください。初回のご相談は無料で承っております。


※本記事は2026年9月19日時点の公開情報(厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」等)に基づいています。個別の職場の安全対策については、専門家や労働基準監督署等にご相談ください。

社労士事務所LDパートナーズ(千葉市)
代表 社会保険労務士 大城里佳

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